2017.03.30

森のようちえん ちいろば : 園長 内保 亘さん

昔の木造校舎を利用した“森のようちえん”

①お勤めの園の特長や魅力について教えてください。

2012年に開園した森のようちえん ちいろば。園舎は、昔地域の子どもたちが通っていた趣ある木造冬季分校。森に囲まれた自然豊かな環境で、少し歩けば山があり、川があり、湧水があり、地域の方々の笑顔や関わりがあり、子どもたちは、ここでの生活を丸ごと感じながら、毎日わくわくで通ってきます。春夏秋冬、四季がとてもはっきりしていて、その変わり目に心と体を傾けながらの1年間。子どもは子どもらしく、大人は人間らしさを感じながらみんなで関わり、育ち合う場所、そして何歳になっても戻ってきていい場所、それがちいろばです。

『生きる力をはぐくむ』という保育方針のもと、何事も自分から、直接体験していくことを大事にしています。喜怒哀楽、色々あるけれど、その全てがこれからの子どもたちの人生にとって大きな土台となり、力になっていきます。子どもたちの人生の土台作りの一助を私たちが担えるなら、こんなに幸せなことはありません。

②通っている子ども達の特長や成長の様子について感じることを教えてください。

異年齢での関わりから一人一人が受ける刺激や影響が、全体としての力を高めていると感じます。下の子は上の子から受けた優しさや、関わり方をよく見ていて、それを真似たり、自分のものとしながら成長していきます。年長児がその一年の大きな関わりの文化を創っていき、それが脈々と下に受け継がれていく。下の子は、受け継がれたものを根っこに持ちながら、自分たちらしい新たな文化を創っていく。そんな風にして、ちいろばっ子は、大人の管理指導のもとで育っていくというよりも、子どもは子どもの世界の中で育まれているものを確かに感じながらゆっくりと前に進んでいく、そういったイメージが出来上がってきました。

年長児は『絆』を意識して、年長児だけで散歩に出たり、登山をしたり、またお泊りをしたりしながら、強固な人間関係を築いていきます。この関係性を、大人になるまでずっと紡いでいってほしい、そんな思いで大人は大人なりに関わっています。

③園の活動や子ども達の様子について、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

子どもたちは、しばしば大人の思惑を超えて、自分なりに判断しながら生活しています。そんな瞬間が見えた時には、大人としてはものすごく驚かされるし、周りの子どもたちも多分に刺激を受けます。

ある時、保育の中で劇ごっこをやっていたときのことです。ちいろばの劇ごっこは年長を中心に作り上げていくもので、年中、少は話し合いにも参加していません。ある年少児が、年長のみの話し合いを傍目で観察していたようで、いざ『劇をやってみようか!』という段になって、突然セリフを言って劇中に入ってきたのです。その子は、注目されることに抵抗があるし、大人としては、大勢の前でセリフを言って演じることなど、考えもしなかったことですが、その子はその子なりに機会を伺いながら、『できる!』と思えた瞬間を逃さなかったのです。

子どもは何を考えているのかわからない存在なのではなく、確かに自分で考えられる力があるし、自分なりにタイミングを決められる立派な人間なのだと、改めて気づかされる瞬間でした。私たち大人は、その子どもたちなりに持っている感覚を、いかに奪わずに、むしろ後押しできるか、そこを大事に大事に考え言動していくべきだと思います。

④「様々な体験活動を幼児期から積極的に取り入れる自然保育」についてどう思われますか。

自然保育は、もともと自然の一部であるはずの人間が、人生の諸段階を人間らしく、生きるために必要不可欠な自然を感じながら育っていくためにとても大事な機会を生み出しています。私個人としては、色々言われている能力的な部分を伸ばすための保育ではなく(例えば、社会性がつく・自立心がつく・コミュニケーション能力が高まる・学習意欲がのびる等)、もちろんそうした観点も大事かもしれませんが、一番大事なのは目の前の子が、遊びに興じたり、寂しくなったり、いたずらしたくなったり、喧嘩をしたりといった何気ない日常を過ごす中で、子どもが子どもらしくあるということが何よりだと思います。

自然は子どもから大人まで、その場にいる人たちに優しく、時に厳しく関わりながら、『いつも自然でいなさい』と伝えてくれます。自然物である人間は、やはり自然から学ぶことを忘れてはならない、ということです。現代人は、人間の有史以来最も不自然なものに囲まれて生きています。誰しも大人になれば、いくらでも不自然な世界に生きられる。だからこそ、せめて子どものうちは、出来る限り自然な環境に親しませてあげたいと思うのが、親心、大人心、人心ではないかと、私は思うのです。それを最大限に実現する可能性を秘めているのが、「森のようちえん」だと思うのです。

⑤今後、みなさんの園に入園される親子のみなさんへメッセージをお願いします。

子どもは紛れもなく生きています。どうか、子どもたちがどう生きたいのか、そんな問いを携えながら園を選んでほしいと思います。そのためには、常にわが子と対話をすることです。この子は今何を必要としているのか、何が大事なのか、子どもの視点を見極めるための対話を続けていくことが肝心です。

⑥最後に、今後自然保育に取り組もうと考えている保育者の方へメッセージをお願いします。

私はどういう環境で、どういう保育をしたいのか、どういう人たちと一緒にいたいのか、そんな想いを大事にしながら、自分の人生の中の居場所を見つけてほしいと思います。その上で、『私はどうしてもちいろばに関わりたい!』という方がいてくれたら、こんなに幸せなことはないと心から思います。