2016.04.21
森のいえぽっち : 小林美佐さん
森のいえぽっちは、NPO法人”ふじみ子育てネットワーク”が運営する野外保育園です。広大なフィールドが広がる町のキャンプ場を主な拠点として過ごしています。
子ども達は豊かな自然の中で四季折々の変化をたのしみ、森や川でたくさんの遊びを発見します。春になると、毎日のように虫捕り網とカゴを持って登園し、カゴの中にはちょうちょや、ばった、カエルにだんご虫など、その日に出会った森の生き物たちが仲間入りします。自然の中では動物や昆虫など人間以外のいのちに出会う機会がたくさんあり,観察したり捕まえて死なせてしまったりする中で、子ども達は命についてたくさんの体験を積み重ねていきます。
また、地域の田んぼをお借りし、保護者の方々とも一緒にお米作りをします。田んぼの中で思いっきり泥んこになって遊び、田植え、草取り、稲刈りと一年を通してお米作りを楽しむ中で、目的に向かって協力し、やり遂げる喜びを体験します。取れたお米は収穫祭で保護者の方々も一緒に味わい、年間を通して週に一度の「ランチ」の日にごま塩ごはんやカレーになって子どもたちのお腹を満たしてくれます。
一年の終わりには稲わらを使って一人一人がしめ飾りを作り、一年間の感謝とつぎの年へのお祈りをします。田んぼの活動を真ん中に置き、「森のいえ ぽっち」では自然とのかかわりの中で子どもたちが育つことを大切に考えています。
ぽっちでは、出来るだけスケジュールにとらわれず、ゆったりと一日をすごすことを大切に考えています。子どもたちの遊びがどんどん豊かに展開しているときは、子どもの時間を保証したいと考えています。
お友達と共に楽しみ、共感し合う体験の中で、充分に満足した子どもたちは達成感と充足感にあふれ、そのあとの活動にも生き生きと取り組むことが出来るのです。お散歩に出かける先を子どもたちと話し合って決めることもあります。意見が分かれ、なかなか話がまとまらない時などもありますが、子ども同士は自分の気持ちを伝え、相手の気持ちにも耳を傾けるというコミュニケーションを積み重ねていきます。
異年齢集団のなかで小さい子たちは大きい子たちほど意見を言わないのですが、大きい子たちのやり取りの中にいながらコミュニケーション力を身に着けていっていると感じます。
大雪の後の日、登園してきた男の子が川岸で遊ぼうと雪の斜面を下りていきましたが戻ろうとすると雪の壁が高すぎて戻れなかったことがありました。その子は大人に助けてもらいたかったのですが、周りの子どもたちは手を差し出したり棒を差し出したり懸命に助けようとしていました。
ですが、「おとながいい!」と言って助けを拒む様子に助けに来た子どもたちはあきらめてほかの遊びに行ってしまいました。そんな中、ただ一人あきらめずにスコップで黙々と作業をしている子がいました。出来上がったのはなんと雪の階段でした。大人に助けを求めていた男の子は自分でその階段を上って戻ってくることが出来たのでした。階段を作った子も、戻ってこられた子もとても満足そうでした。
子どもたちはお互いの事に思いを巡らせ、考え、行動し、自分たちで解決することが出来たのです。こうした経験の積み重ねが子どもたちの生きる力になっていくのだな、と感じました。
自然保育では、野外で過ごす時間が多いので、自然の変化や影響を感じ、その時々の対応を考える必要に迫られます。そのような環境の中で、保育士はすぐに指示を出したり、答えを教えてしまったりせず、子どもたちがじっくりと考え、判断していくのをゆっくり待つことを大切にしています。
時には失敗もありますが、子どもたちは失敗から多くの気づきをし、一歩一歩自分の力で育っていくのです。考え、行動に移すことを見守れる日々は自然保育のゆったりとした時間ならではのものではないかと思います。
野外で過ごす毎日では人間の生活の原点がたっぷりと感じられます。夏の風や冷たい川の心地よさ。冬の水の冷たさ。冷たくなった手を温めてくれるたき火。現代社会の中では少なくなってしまったあるがままの自然と向き合う機会がたくさんあります。少し不便ななかだからこそ、感じ、考える機会も多くなり、人として自然の中に生きていることを感じていくのだと思います。
幼児期の体験はとても大切だと思います。未来を担う子どもたちが自然から何を感じ、どんな体験をし、仲間たちと育っていくか、その場面に関わる大人として、保育者はとても責任のある立場だと思います。
子どもたちがいきいきと過ごせるように丁寧に関わっていくことが大切で、それは、たとえ自然が少ない環境でも、日々の保育の中で出来る事がたくさんあるのではないかと思います。どこの園に通っていてもそういった機会に多くの子どもたちが恵まれていくといいな、と思います。