2017年6月26日
2016年5月13日(金)
この時期になると毎年流れ始める沸き水の水路を遡って見に行こうということで、昼食をもってさんぽに出発。途中の原っぱで昼食をとり、食事を済ませた人から思い思いに時間を過ごしていた。
周辺を散策していた保育者が子どもたち全員に集まるよう声をかけた。そこには水路の水際に体を横たえて死んでいるタヌキがいた。
体のほとんどは水につかっていて、水に浸かった部分は毛に覆われた体がそのまま残っていたが、水から出た腹部は、耳をすませば音が聞こえてきそうな程の大量のウジが、その部分だけうごめいていた。骨が出ている所もあり、口を半開きにして横たわるタヌキは、まるまるとしたタヌキのイメージとは程遠い、死んでいることを実感せざるをえない顔をしていた。
保育者はなぜタヌキは死んでしまったのか。タヌキの体はこれからどうなるのか。ウジはタヌキの体を食べて分解してきれいにしてくれているなどの話を、昨年森の中で出会った死んだタヌキの話なども交えながら、子どもたちに淡々と話した。
子どもたちは一言も発することなくその話に聞き入り、じーっとタヌキの姿を見つめていた。その静まりかえった状態を破って、年長女児Hが「かわいそう。」とことばにすると、年中男児Mら数人もつられたように「かわいそう。」とつぶやいた。年長女児Sがすーっとその場を離れて背を向けてうろついた。
その後保育者が園に戻る仕度をするように伝えると、子どもたちは静かに移動し始めた。帰る支度をしながら年長女児Hが「かわいそうだったね。」と言うと、隣にいた年中女児Mが「かわいそうじゃいえないくらい かわいそう。」と言った。
帰り道、年長女児Sは昨年タヌキが死んでいた場所で、その時のタヌキの骨を拾って帰った。
その日の帰宅後、さんぽ先で出会ったタヌキの様子を母親に話した子どもが何人もいたようであった。
<家での母親との会話より>
○年長女児H
その日の帰宅後、自分からさんぽ先でタヌキが死んでいたことを母親に伝え、「(死んでしまったタヌキは)うみにながれていくか くさにひっかかるかって せんせいがいってた。 どうぶつさんたちに なにかされちゃったのかなぁ…。」と言った後、「かわいそう」と一言いった。
○年長女児S
タヌキの死については家では何も言わなかった。去年ひろったタヌキの頭の骨は今もベランダに置いてあり、本人は特に興味を持っているようにはみえない。
○年長女児K
「タヌキさんが かわでしんでたの。で、かわのなかで ハエみたいな…ハエのなかまの…(ウジ) それがいっぱいいっぱいついてたの。なんでウジむしが いっぱいついてたのかなぁ?やまになってた。」と川の中で顔を沈めて死んでいた様子を話した後、「みんな かわいそう っていったけど、Kはちがう。 だって みんなかわいそうっていったけど あっちからこうやってあるいてきて すべってボッチャーンっておちたのね。Kだったらね、だれでもあそこですべって おちちゃうことってあるでしょ?だからKは かわいそうじゃないっておもった。」と話し、その日の夜は何回かそのことを口にしていた。
○年少女児M
帰りの車の中で、「きょうは かわでタヌキが あたまいれてしんでた。」と話し、「かわいそう…みんなかわいそうっていってた。」という。Mもそう思ったの?という母親の問いに「ううん。」と答えた後、「しー!」と口に指をあてて、「トト(お父さん)にはいっちゃだめだよ。もうこのはなしはしない!」とそれ以上話さなかった。
○年中男児S
タヌキのことを、「タヌキ おぼれてしんじゃったんかも。しろいとうめいのむしが いっぱいいた。もう ほねだけになってるかも。」と言った。母親が死んだタヌキを見てどう思ったか訊くと「おもしろかった」と言った。
○年中女児M
降園後、「きょう かわでタヌキがしんでたの…。」と母親の耳元でそっと教え、その日はそれ以上は語らなかった。
2日後お風呂に入っている時に、おじいちゃんとおばあちゃんは誰から生まれてきたのかを聞いてきたM。ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが死んでしまっていることを話すと「しんじゃったの? しんじゃうとやけちゃうの? かおまでやけちゃうの?」と尋ねた。骨だけになりその骨はお墓に入るのだと母親が話と「そうなんだ…。」としばらく考えた後、「ほねといっしょに いのちも のこるんじゃない? いのちって だいじだから。」といった。人間は死ぬと焼くが、動物は焼かないと母親が言うと、「こないだ かわで タヌキがしんでたよ。 どうなっているのかなぁ…。どうなっていくのかな…。」しばらく考えてから、「タヌキも いのちはだいじだから のこるんじゃない…。」と言って最後に、「かわいそうだった…。」と初めて口にした。
一緒にタヌキの死を目にし、同じ時間を過ごした子どもたちだったが、目の前の「タヌキの死」に対する思いや視点はそれぞれであったようだ。
なぜ死んでしまったかを自分の体験してきたこともなぞらえながら思いを巡らせる様子、目の前に見えている状態そのものに興味を向ける様子、他者の発した言葉に対して自分の思いとはちがうと感じ、またそれには自分なりの考えがうかがえる様子、タヌキの死に対する何らかの気持ちを、去年出会った死んだタヌキの骨を拾うことで満たそうとする様子、死によってタヌキそのものの姿の変化に対しても、いのちというはっきりとはしないものの変化に対して思いを巡らせ様子など様々であった。
「かわいそう」ということばでは片付けられない、わからなさも含めた気持ちのモヤモヤを感じ、ことばに出して母親に伝えることで、再度その時見た光景をなぞりながら、どこかに自分なりの気持ちの落ち着き場所を探していたようなところもあったのだろうか。
自分ではなすすべもなく、ただただ受け止めるしかない状態を体験し、それと向き合い何ともことばにできないような、落ち着かないような、絡み合ったような心のモヤモヤを感じる体験の重なりは、気持ちのひだを細やかにし、自分なりの感じ取り方を育んでいくのではないかと感じた。
園の形態 | 特化型 |
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代表者氏名 | 園長 : 小林 成親 |
運営法人 | 特定非営利活動法人 山の遊び舎 はらぺこ |
運営法人代表者名 | 阿部 大輔 |
園の設立日 | 2005.4.1 |
認定日 | 2015.10.13 |
区分 | 認定こども園 |
住所 | 〒396-0004 伊那市手良中坪1452 |
エリア | 南信 |
お問い合わせ先 |
TEL : 0265-76-3341 FAX : 0265-98‐9355 MAIL : hello@harapeco.org |
ホームページ | https://harapeco.org |
定員数 | 未満児 : 5人 3歳児 : 7人 4歳児 : 7人 5歳児 : 7人 6歳(学童)以上 : 0人 |
基本開所曜日 | 月,火,水,木,金 |
基本開所時間 | 8時〜16時 |
延長保育の有無 | 要問合せ |
園児募集 | 要問合せ |
保育者募集 | 要問合せ |